2014年12月7日日曜日

【 ちょっと 懐かしい いい話3】 〜 なんとも昭和な匂いの居酒屋 〜

ここは【 福の屋 】。熊本の新市街をちょっと入った赤ちょうちんのかかる古い居酒屋。反対側に続く煌びやかな歓楽街とは対照的な、平成に馴染まない、取り残されたような店だ。ここが【ばってん荒川さん】の心の拠り所だと知ったのは、亡くなってから何年も経ってからだった。同じ年の、自転車でどこまでもパンを売り歩く、上通りあたりにある【ア・ラモード】の新本さんからだった。一昨年《ばってん荒川さんの7回忌の記念コンサート》の後、初めて伺った。暖簾をくぐったた途端、正面にはばってん荒川さんが微笑んでいました。「ばってん荒川さんはいつも決まってこの席に座って、静かに食事バしよんなはったです。ほとんど酒は飲まれんでした。パチンコに勝った時は機嫌の良くて、お客さんみんなによ〜おごりよんなはったです。」「[ワハハ本舗]の劇団員が来た時は、みんなにおごってやんなはつって、それを久本さんや柴田さんは今でも恩義に思ってらっしゃるとです。佐藤蛾次郎さんは今でもばってんさんを慕って時々寄ってくれなはっです。」心から人の良さそうなご主人は、穏やかに懐かしそうに話してくださいました。「こん前、息子の勲くんが、ばってん荒川さんの緑の衣装バ着て舞台に上がっとったつば見たら、まぁ〜若っかころのばってんさんにそっくっだった。涙んでた」ハキハキした明るい、働き者の女将さんは笑いながらそう話してくれた。『お客さんはあまり金持ちじゃないような人が多かです。パチンコや競輪に行ったり、地位や肩書に関係なくフラリ来て1人静かに寂しく酒を飲む人が多かです。ときには陽気に話したり、愚痴ったりする人もおっです。でも、着飾ざらず、威張らず、素のままの人たちが集まるこの店が、ばってん荒川さんは1番居心地が良かったんじゃないでしょうか?』もう今回で5回目になりますが、この店に来て、ご主人と女将さんの醸し出すあったか〜い雰囲気。初めてお会いするのに、来ているお客さんと話をしているとそれがしみじみわかります。誰もが気取らずそのまま、誰に強要されることもなく、カラオケもない。話したくなければ黙って帰る。聞いてほしくてたまらなければお二人に話をぶつける。体の具合の事、年金のこと、息子の結婚の話、姑の愚痴、…そんなたわいも無いもない日常の話がこの店に当たり前のように流れている。[ ばってん荒川さんが20年前に、僕の作った【生きたらよか】を自分で歌いたいと思われたその本心を知りたかった]100回以上もお仕事でご一緒させていただいていたのに、1度もじっくりとお話しできなかったのを今でも悔やんでいる。でも、多分ばってんさんは、誰にも自分の心の中の奥底をを話される事はなかったなんじゃないだろうかと、僕は勝手に想像している…。ばってんさんに会いたくなったらここに来る。ばってんさんの優しさがここにある。何か大切なものを忘れそうになったら思い出させてくれるような気がする…。
今回初めて気がついた…とても不思議な感覚だった。なんと【ばってん荒川さんの還暦】の時の写真が飾ってあったのだ。(今から17年前、もうすでに「帰らんちゃよか」を歌われて3年ほど経っていた頃だ)。今の自分の顔と見比べてみる…。どっちが若く見えるだろうか…どっちがヨカ男だろうか…ハハハハ…。その隣にはご丁寧にも、ここのご主人の還暦祝いの時の集合写真もあったのだ。ご主人は今年古希を迎えられた。僕のデビュー35周年の完結と還暦の報告に訪れた時にこんな出会いがあるなんて…。昨年この店に訪れてから、その後ご主人は目を悪くされ、今あまり相手の顔がわからないほど症状が悪くなられている。それでもちっともくよくよすることもなく、今日も女将さんと2人で明るく店に出ていらっしゃいます。『もう〜 涙が出るほど…がんばらなきゃ〜って思うなぁ。ばってん荒川さん福の屋のみなさん…ありがとうございます!』